クラレンスになれなかったこと

カテゴリー │家族の肖像日記

12月8日は何の日?と聞かれたら、
多分「真珠湾攻撃の日」と答える人が一番多いだろう。
次に多いのは、「ジョンレノンの命日」だろうか。

きっと誰も知らないだろうけど、
12月8日は、七歳上の姉の誕生日。
亡くなった人の年齢を数えても、
意味はないかもしれないけれど、
生きていれば51歳。
大学生くらいの子供がいても、おかしくない年齢だろう。

姉は26才で心を病み、46歳で亡くなるまで
ずっと病院で過ごした。
短大卒業後、工場の事務をしていたけれど、
職場の人間関係や、母親の死やら、
いろいろなことが重なって、
心が壊れてしまったらしい。

ドライブしたり、旅行したり、恋人とデートしたり、
二十代の女性が、普通に過ごすであろう青春期を、
姉はずっと病院で過ごした。
鉄格子のはめられた窓から、
どんな景色を見ていたのだろうか。

七歳下の薄情な妹は、勝手に家を出てしまい、
父親は病院に寄り付かず、
鍵をかけられた閉鎖病棟の中で、
その孤独は、如何許りだったろう。

12月はクリスマスの月だからと、
いつも一つのケーキにされて、
甘いものは好きじゃないから別にいいと、
強がりとも、本気とも区別のつかないことを言っていた姉。

性格も、服の趣味も、食べ物の好き嫌いも、
全然違う姉妹で、一緒に遊んだ記憶もほとんどない姉。
可哀想なくらい不器用で、要領が悪くて、
父親とぶつかってばかりいた姉。
絵が上手で、漫画が大好きで、
お酒は一滴も呑めなくて。

お姉ちゃん、人生は楽しかった?
私、お姉ちゃんが笑ってる場面が、全然記憶にないの。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

クリスマスシーズンになると、思い出す映画がある。
「素晴らしき哉、人生」



この映画の中で、誠実に生きてきた主人公ジョージは、
部下のミスで大金を失い、人生に絶望して川に身を投げる。
そこに翼のない二級天使が現れて、
「あなたがいない世界がどれだけ侘しいか、見せてあげよう。」
と、ジョージがいない世界を見せてくれるのだ。

天使の名前はクラレンス。
姉にとってのクラレンスになれなかったこと。
後悔してもしきれない、私の傷の一つだ。
12月になると、その古傷が痛み出す。

もしあなたの周りにジョージのような人がいたら、
言ってあげてほしい。
「不思議だと思わないか? 
誰の人生も大勢の人生に影響を与えているんだ。
一人いなくなるだけで、ぽっかりと穴が開いてしまうだろう?」

二級天使クラレンスが、ジョージに言ったセリフである。





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